【坐禅作法85】ニュートンの林檎
ちょっとはマシな坐禅作法 ニュートンの林檎〜縁覚道の地図5〜
〜縁覚道の地図5〜
私の目前にリンゴが落ち、そこに法則性を見た
生ける伝説のロックバンド・ザローリングストーンズが、わが街・札幌にやって来たのは2006年3月29日のことだった。
今でも目を閉じて耳をすませば、アンコールで響いてきた『サティスファクション』の甘美なリフを初めてのキスのように思い出すことができる。
ボーカルのミックジャガーは「また来るべやあ」と親しみを込めたわれわれの方言でMCを放ってくれたけれど、次回に来日した際には札幌での公演はなかった。
おそらく、もう二度と来ることはないだろう。
まるでゆきずりの恋のようだ。
その数日前に32歳の誕生日を迎えていた私は深夜のふと目が覚めた瞬間に人生初となる“内なる声”を聴いた。
「オマエの願いは聞き入れられた」
当時の私は これをストーンズのライブチケットのことを意味しているものとてっきり勘違いしたものだ。
事実、この内なる声を信じてチケットを買わずに待っていたら、公演当日になって、連れが偶然にもチケットを手に入れてきた。
そんな経緯も手伝って長らく誤解し続けてしまったのである。
しかしながら、あの内なる声こそ“悟りの軌道”に入ったことを知らせるメッセージだったことを今では知っている。
こんな風に、悟りの軌道の存在は、啓示的に、それでいて、季節の変わり目のようにあいまいな粧(よそお)いで、すべての求道者に告知されている、というのが私の見解である。
それに気づくかどうかは単純に感性の問題なのだ。
すなわち、“悟りの軌道理論”は どこにでも転がっている自然法則である、と言ってしまえば それまでのことなのだろう。
たとえば、万有引力の法則は その発見以前から地球上にたしかに存在していた。
したがって発見者のニュートンはリンゴが樹から落ちる様子に法則性を見出して公式化したにすぎない。
私の“悟りの軌道理論”も、また、それとまったく同じことである。
私の目前にリンゴが落ち、そこに法則性を見た。
つまりは、そういうことなのだ。
また、この法則の存在に気づき始めた頃、これが自然法則というならば、古今東西、どこかで誰かが公式化を試みていてもおかしくはない、との仮説を私は立てた。
そこで、ギリシア哲学、仏教経典、印度ヨーガに中国道教、しまいには、オカルト趣味の精神世界の文献に至るまでを、気のおもむくままにひもといてみると、果たして、悟りの軌道についての記述が断片的ながらも存在していることがわかってきた。
すなわち、私の仕事は その不ぞろいなリンゴたちを一つの箱にただ整然と並べることだったのである。
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悟りの軌道理論〜探求の動機〜
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おそらく私の悟りの軌道理論の探究は最初の内なる声を聞いた32歳から七年後の39歳にはじまっている。
それは2013年8月4日のことで、その日、私は再び内なる声を聴いた。
「オマエの修行は完了した」
<<いったい何の修行が完了したというのか。何も終わってないし、何も始まってないじゃないか>>。
この疑問が理論の完成に至るまで切り離せない影のように私につきまとうことになる。
まるで内なる声を通じて一つの公案を与えられたかのような気がしたものだ。
この39歳の時点でとりあえずわかったことは、最初の内なる声を聴いた32歳からの七年間、私は何らかのカリキュラムを与えられて修行してきたらしい、ということである。
この“七年間”で思い出したのはファンタジー小説の金字塔『ハリーポッター』シリーズで主人公たちの通う魔法学校も七年制であったことだ。
考えてみれば、これは おかしな設定なのである。
著者のJ.K.ローリング女史は英国の作家なのだけれど、そもそも魔法学校のモデルとなっている英国のパブリックスクールは七年制ではないのだ。
そのため、J.K.ローリングという作家は、旧約聖書の預言者たちのような能力を持った人物で、何か形而上(けいじじょう)的なシンボルを『ハリーポッター』という物語に綴(と)じ込めているような気がしたのである。
「何かにおわないかね、ワトソン君」
こうして私が英国の私立探偵・シャーロック=ホームズのような推理を働かせたのには、もう一つ理由がある。
32歳の内なる声を聴いてから、ずっと見続けている夢があった。
私はどこかの高校と思(おぼ)しきところに通っているのだけれど、遅刻したり、忘れ物をしたりで、単位を落として留年しそうになっているという忌(い)まわしい夢だ。
どうやら私は本当に単位を落として留年していたらしく、この夢の中の高校を卒業したのは40歳になったばかりの2014年4月15日のことだった。
その日みた夢の中で私が学び舎の玄関に到着すると、下足箱にあるはずの上靴が片付けられていて、そこに現れた学校の職員に こんな告知を受けたのだ。
「君はそろそろ、ここを出て行くことになるんだよ」
それ以来この学び舎の留年する夢は一切見なくなった。
また、このとき私は職員から嫌味(いやみ)とも揶揄(からかい)ともとれる捨てゼリフを吐かれている。
「われわれは腰掛け程度に君を置いておくつもりだったが、君はちょっと長居しすぎだ」
たぶん何かの単位を落として留年していた私は七年制の形而上の学校の単位を八年かけて取得したのだろう。
こうして私は、魔法学校はおとぎ話の世界の話ではなく形而上的にたしかに存在していること、 さらには、その学校には厳密なカリキュラムがあり、必須あるいは選択科目としていくつかの単位を満たさなければならない仕組みになっていることを知った。
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面壁九年の謎
ここで私立探偵・仁悟ホームズが次に疑いの眼を向けたのは“面壁九年”という言葉だった。
この現実世界においても高校や大学はいつまでも留年していられるわけではない。
留年できる年限は規則的に決まっていて、それを過ぎると卒業資格を与えられずに除籍されることになる。
<<形而上の学校においては その年限が九年なのではないか>>
要するに私はこう考えたのである。
悟りの軌道に乗る資格を得られた求道者は『ハリーポッター』の魔法学校に象徴されているような形而上の学校に入学することになる。
そのカリキュラムの全過程は原則七年間で、たしかに留年制度もあるけれど、どちらにしろ九年間しか在籍できない。
問題は この形而上の学校の必須単位を取得しないまま九年間を無駄に過ごして除籍されてしまった場合に生じる。
つまり、九年経過後に開始される頭脳分裂の進行に適応できず、精神分裂を引き起こし、ついには、発狂に至ってしまうのではないか。
それがために私は半(なか)ば忌まわしい警告のようなかたちで留年する夢を見せ続けられていたのだろう。
私がこう仮定したのは、そう考えなければニーチェが発狂に至った経緯を説明できなかったからである。
このとき、私の脳裏には こんな図式が浮かんでいたのだ。
悟りの軌道モデル(初期型1)
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図:布施仁悟(著作権フリー)
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この図式のうち、止(解脱)から非止非観(法身)に至るまでのX年についてはニーチェのおかげで容易に推論することができた。
当時40歳だった私は、37歳のときに最初の着想を得た『ちょっとはマシな坐禅作法』という作品をまだ書き続けていて、ようやく最終章のインスピレーションを待つ段階に入ったところだった。
奇しくも、ニーチェの『ツァラトゥストラ』の最初の着想も私と同じ37歳のときで、その完成は41歳のことである。
さらに、過去の偉人たちの業績を調べてみると、トルストイの『戦争と平和』やブラームスの『交響曲第一番』なども同じく37から41歳の5年間に渡って創造されていたことがわかってきた。
シェイクスピアの代表作『ハムレット』『オセロー』『リア王』『マクベス』もちょうどこの時期の作品である。
そこで、おそらくこれは形而上の学校における卒業論文や卒業制作みたいなものであろうと考えられた。
もしも、ニーチェやトルストイやブラームスやシェイクスピアが、私と同じく32歳のときに悟りの軌道に参入し、形而上の学校に入学していたとしたら、その九年後は41歳。
そこから頭脳分裂が始まるとして、たとえば、ニーチェが万法一如の悟りの世界を一瞥した代償であるかのように発狂に至ったのは44歳であるから、止(解脱)から非止非観(法身)までの期間は三年間であることは明らかだった。
悟りの軌道モデル(初期型2)
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図:布施仁悟(著作権フリー)
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さらに、悟りには小悟と大悟の別があることも知られている。
もしも41歳の頭脳分裂開始から三年後の非止非観が小悟に相当するとしたら、もちろん大悟はその数年後になる。
この小悟から大悟までの期間はあたりまえに六年であろうと私は推測した。
悟りの軌道モデル(初期型3)
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図:布施仁悟(著作権フリー)
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この推理の背景には、私が好んで読み込んでいた『法華経』の影響があるだろう。
悟りの軌道モデル(法華経型)
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図:布施仁悟(著作権フリー)
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まず、悟りの軌道に参入すると与えられる運命の試練の下で、通常の意識で認識可能な顕在意識下の修行を十分に積み、“声聞道”を歩みきったところで頭脳分裂が始まる。
すると、禅定(ディヤナ)や三昧(サマディ)を体験するようになり、そこから潜在意識下の修行である“縁覚道”を歩みながら大悟徹底を目指す。
『法華経』を読んでいるとこうした図式を自然に描くようになってくる。
そのため、どういうわけか「声聞道と縁覚道はそれぞれ九年間と決まっているんだろう」などと当然のように発想してしまったのだ。
かくして方程式は私の頭の中でこのように解かれた。
頭脳分裂開始から小悟まで(三年) + 大悟まで(X年) = 縁覚道九年
大悟まで(X年) = 九年 − 三年 = 六年
さて、この悟りの軌道モデルによれば、32歳で悟りの軌道に入った私は50歳で大悟することになるのだけれど、「50歳で大悟」ということであれば、これとまったく同じモデルを描いていた哲学者がいたことを思い出した。
ギリシアの哲学者プラトンが『国家』に書き残していたものが、50歳で大悟するモデルだったのである。
<<もしかすると、この悟りの軌道は本当に存在するのかもしれない…>>
以上が私の目前に最初に落ちてきたニュートンの林檎である。
まだ雲の中を歩いているようなもので輪郭はぼやけていたけれど、すでに この時点で理論の骨子は完成をみていた。
おかげで、このあと大悟の実現可能性を知るために必要なことと言えば、悟りの軌道モデルの存在を裏付ける不ぞろいの林檎たちを拾い集めればよいだけとなったのだ。
(2015.3)
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